*本記事は、2021年5月に株式会社グリーゼで公開したものを、2024年10月に一部修正を加えて公開しなおしたものです
グリーゼ(現シェダル)はSDGsに関する社内勉強会の一環として、先行企業の見学ツアーを実施しています。2020年12月には、埼玉県入間郡三芳町で産業廃棄物の中間処理業を手がける石坂産業株式会社を見学しました。 ツアー後、「もっとゆっくり話を聞きたかった!」「もっとあちこち見たかった!」という声が多かったため、再度石坂産業を訪問することに。
2021年4月に2回目の見学ツアーを実施し、初訪問のメンバーも含めて16名が参加しました。オリエンテーションでは、石坂産業の担当の方から「SDGsの17のゴールそれぞれについて、当社のどんな取り組みがそれに当てはまるか、探してみてください」とのお言葉。宝探しゲームのような要素もあり、SDGsについて楽しく学べそうだと期待が高まりました。
左:【大型トラックが行き交う入り口。レーンが整備されているので、徒歩での移動も安心】
右:【入り口付近にあるのは、石坂産業の理念を示す「Zero Waste Design」の看板】
1.逆境を乗り越えてきた石坂産業の歩み
石坂産業は、2018年度日本経営品質賞「経営革新推進賞」をはじめとした数々の受賞歴があり、雑誌やテレビなど多くのメディアで取り上げられています。リサイクル工場の見学に訪れる来場者は年間4万人。これほどの高い評価を受けるようになるまでの道のりには、大きな試練もありました。
その一つが、1990年代にテレビ報道をきっかけとして起こった所沢ダイオキシン問題です。石坂産業の焼却施設はダイオキシン対策済みでしたが、大きな煙突があったために地域住民から非難され、ついには立ち退きを求める訴訟にまで発展しました。そのときに石坂産業は、「地域に必要とされる会社にならなくてはいけない」と、作ったばかりの焼却施設を廃棄する決断をしたのです。
そして、焼却による縮減事業(※1)から撤退し、再資源化へと注力するようになりました。2019年7月現在、ゴミの減量化・リサイクル化率98%を達成しています。
住民と対立したり、諦めて立ち退いたりするのではなく、地域貢献を目指す。その方針があったからこそ、今の石坂産業があるといえるでしょう。見学ツアーでは、地域貢献の取り組みをどのように行っているか、実際の設備や装置を見ながら教えていただきました。
※1 縮減とは
廃棄物の体積を小さくすること。方法としては、焼却、脱水、乾燥、圧縮などがあります。
2.里山と住民を気遣う地域貢献活動
石坂産業がまず取り組んだのは、メイン事業である産廃処理において、騒音やホコリが周辺に漏れないようにすることでした。そのために、リサイクル工場全体を建物内に納める「全天候型独立総合プラント」を建設。騒音を吸収する緑化防音壁や、工場内のホコリを集める機械など、工夫を凝らした設備を導入しています。
リサイクル工場内には見学者用の通路が設けてあります。工場を地域住民に開放し、石坂産業がどのように産廃を処理しているのか、実際に見てもらおうという取り組みです。今では地域住民だけでなく、日本全国や海外からも見学者が訪れるようになりました。
見学者用通路の一部は「Green Action ストリート」と名付けられ、白い壁にメッセージを自由に書き込めるようになっています。「感動した」「素晴らしい」「また来たい」といったメッセージが多く見られ、石坂産業の取り組みに感銘を受けた人がたくさんいることが伺えました。
【Green Action ストリートにメッセージを書き込むメンバー】
石坂産業の地域貢献は工場内だけにとどまらず、地域全体の環境を考えた活動へと広がっています。
敷地周辺の景観を守るため、「ごみゼロ運動」として社員がボランティアで公道を清掃。また、不法投棄が絶えなかった森林の保全に取り組み、多種多様な生物が生きる里山へと再生しました。再生した森はJHEP認証(※2)で国内最高の「AAA」と認定され、環境問題について学ぶためのサスティナブルフィールドとして開放されています。
将来的にはエネルギー供給企業になることを目指し、エネルギー創出と活用にも積極的に取り組んでいます。敷地内には太陽光パネルや、風力と太陽光の一体型発電装置、地中熱利用システムが導入されていました。
災害への備えも、地域貢献の一つ。敷地内に設置された大型鉛蓄電池は、工場で日常的に使用する電力を蓄えておくだけでなく、「仮想発電所」として、災害などによる停電の際には地域に電力を供給できる仕組みです。また、敷地内には、災害時に必要となる食料品などの物資を備蓄しています。
左:【風力左:【風力+太陽光の一体型発電装置。発電した電力は施設内の常夜灯として利用】
右:【再生された里山。工場の敷地内とは思えないほどに静かで落ち着いた雰囲気】
石坂産業が地域に貢献するために行っている活動は、以下のSDGsのゴールと主に関連しています。
※2 JHEP認証とは
生物多様性の保全や回復に資する取り組みを定量的に評価、認証する制度。
3.高い技術力を支える「人」を大切にする取り組み
今回の見学で印象に残ったのは、工場の設備や里山の風景だけではありません。出会った方全員が、見学者を温かく迎え入れてくれたことにも心を打たれました。誰もがキビキビと働きながら、すれ違うと笑顔であいさつしてくれます。リサイクル工場の重機オペレーターは、こちらが手を振れば振り返してくれます。自分の仕事や会社に誇りを持っているから「ぜひ見てほしい」という気持ちになり、見学者を歓迎できるのだろうと感じました。
このように、社員が生き生きと働ける理由はどこにあるのでしょうか。社員を大切にする取り組みについても教えていただきました。
石坂産業では障害者の就労支援、シニア世代や外国人の雇用など、ダイバーシティに関する取り組みも活発です。日本企業全体では管理職に占める女性の割合は1割ほど といわれていますが、石坂産業では女性管理職がおよそ4割。ジェンダー平等の意識が浸透していることが伺えます。
社員の健康を守るため、独自の取り組みも。例えば「禁煙プロジェクト」では、非喫煙者と禁煙者は月3回までお弁当が無料になる仕組みを作り、禁煙を呼びかけています。
忘れてはならないのが、働きがいにつながる取り組みです。石坂産業では、リサイクル工場の機械にトラブルがあっても迅速に復旧できるよう、自社で修理・メンテナンスを行っています。そのために重要なのが、社員の技術の向上と継承。社員同士が技術を教え合い、学び合う勉強会を「石坂技塾」と名付け、年間で約40回も開催しています。一緒に技を磨く仲間がいることで、社員のモチベーションが高まっているのでしょう。
【機械の修理・メンテナンスを行う加工場。社員は石坂技塾で技術を磨く】
リサイクル工場ではゴミを選別するロボットも稼働していますが、大部分は人間の手作業に頼っています。工場を見学して、減量化・リサイクル化率98%を達成するために必要なのは「人」の技術力だということを強く感じました。社員を大切に育成する仕組みは、SDGsのゴールとも密接に関連しています。
4.まとめ
今回の見学ツアーでは、SDGsのゴールにつながる取り組みを見せていただきました。そうはいっても、石坂産業は最初からSDGsを意識してこれらの取り組みを始めたわけではありません。ゴミの再利用を目指し、地域に必要とされる会社になろうと努力してきた結果が今、SDGsに結びついているのです。
「SDGsは社会全体の問題を解決すること」だと思うと、規模が大きすぎて、取り組むのがためらわれるかもしれません。それよりも、まずは身近なところで会社を支えてくれる人々や自然に貢献しようという気持ちが、SDGsの第一歩になると感じた1日でした。
(ライター 小嶋 真以)
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