【拓殖大学】Z世代の心を掴むのは「数字」より「ストーリー」!学生19名の統合報告書ワークレポート

2025年12月、拓殖大学にて授業の機会をいただき、そのなかで「統合報告書を読んでみよう~」というワークショップをやらせていただきました。
冒頭で、「統合報告書って、ご存知でしょうか?」と問いかけると、ほとんどの学生が、「知らない、聞いたこともない」という反応でした。
企業の財務情報と非財務情報を一冊にまとめた「統合報告書」ですが、実は就職活動を控えた学生たちにとって、企業の「素顔」を知るための絶好の教科書となるのです。
私は、統合報告書を学生のみなさんに、もっともっと読んでいただきたい! そして、企業の意外な素顔を知って、企業にもっともっと興味を持っていただきたいと思っています。
以前、嘉悦大学で実施した際にも多くの反響をいただきましたが、大学や学部が変われば、学生の着眼点もガラリと変わります。
今回の拓殖大学(商学部)でのワークでは、学生たちの「等身大の企業選び」や、Z世代らしい「シビアなデザイン評価」など、興味深い傾向が見えてきました。
本記事では、参加した学生19名のリアルな「気づき」を紐解きながら、これからの時代、若者に響く企業発信のヒントを探ります。
拓殖大学にて、シェダルの授業
| 項目 | 内容 |
| タイトル | シェダルの紹介と 「ワークショップ~統合報告書を読んでみよう~」 |
| 開催日時 | 2025年12月11日(金) 11時15分~13時(105分) |
| 講師 | 株式会社シェダル 代表取締役 福田多美子 |
| 参加人数 | 19名(大学生) |
| 場所 | 拓殖大学(東京都文京区) |
| 内容 | 1:株式会社シェダルの紹介とサステナビリティ 2:企業の描く未来を知ろう ~統合報告書を読んでみよう~ (ミニワーク) 3:質疑応答 |


きっかけは「自分との接点」。そこから見えた企業の素顔
最初に、統合報告書の読み方について、簡単に解説を行いました。100ページ以上ある統合報告書も少なくありません。
「どこを、どんな目的で読んでいけばいいか」「どこに、何が書いてあるのか」について、説明を行いました。
そのあとは、学生のみなさんが「気になる企業」の統合報告書を検索して、読み解く時間。最後に、2名~3名で、気づきや感想をシェアする時間を設けました。

まず興味深かったのは、学生たちが数ある企業の中から「どの企業を選ぶのか」、そして「なぜその企業を選んだか」という理由です。
その動機は、非常に素直で等身大のものでした。
- 「自分の車がマツダだから」(マツダ)
- 「愛知県出身で地元の企業だから」(トヨタ自動車)
- 「昨日、スーパーで商品を買ったから」(味の素)
- 「親戚が働いているから」(日立製作所)

このように、多くの学生が「自分とのリアルな接点(タッチポイント)」を入り口に企業を選んでいることがわかります。
一見すると単純な動機に見えるかもしれません。
しかし、Z世代にとって消費行動と企業への関心は、密接にリンクしています。彼らは、自分が普段愛用している製品やサービスの裏側に、どのような企業の「想い」や「社会への責任」があるのかを知りたがっているのかもしれません。

心を動かすのは「業績」よりも「ストーリー」
実際に報告書を読んだ学生たちは、企業のどこに惹かれたのでしょうか?
商学部の学生らしく「売上高」や「利益率」といった数字に注目する学生もいましたが、それ以上に多くの学生が感想に綴ったのは、数字の裏側にある「物語(ストーリー)」でした。
過去・現在・未来をつなぐ「一貫性」への信頼
例えば、日立製作所を選んだ学生は、「創業の精神が原動力となり、軸がブレずに成長し続けるストーリー」に感銘を受けていました。変化の激しい時代だからこそ、変わらない「創業の精神」や「理念」を一貫して守り抜く姿勢が、若者には「信頼」として映るようです。
「モノ売り」から「コト売り」への転換への共感
また、敷島製パン(Pasco)を選んだ学生の感想では、「今までは単にパンを売って利益を生む企業だと思っていた」という認識が、報告書を読むことで「顧客に新しいライフスタイルを提供し、『ファンづくり』を徹底している企業」へとアップデートされました。 単なるメーカーとしてではなく、生活者の人生を豊かにするパートナーとしての姿勢を、読み解いた結果です。
パーパス経営への共鳴
トヨタ自動車を選んだ学生の感想では、「『幸せの量産』という使命を掲げ、利益だけでなく『交通事故ゼロ』などの社会課題解決を中心においている」点に共感したとのこと。 「統合報告書を知らない」と言っていた学生でも、読み方のガイドをしてあげれば、「社会的意義(パーパス)」や「価値創造プロセス」という聞きなれない用語も、抵抗なく読み進められることもわかりました。


忖度なし!「見やすさ」へのシビアなUI/UX視点
デジタルネイティブである彼らは、コンテンツの「中身」と同じくらい、情報の「見せ方(UI/UX)」を非常に重視しています。
彼らにとって情報は「苦労して読み解くもの」ではなく、「直感的に入ってくるもの」です。そのため、今回のワークでも、デザインや構成に対する忖度のない率直な意見が飛び出しました。
「分かりやすさ」は正義
オリエンタルランドや日産自動車の報告書は、「図解が多くて分かりやすい」「財務・非財務情報のハイライトがグラフになっていて見やすい」と高い評価を得ました。 特に、膨大な情報を視覚的に整理し、直感的に理解できるインフォグラフィックスやグラフの多用は、スマホ世代にとって必須の要素と言えます。
「文字の羅列」は読まれないリスク
一方で、ある企業の統合報告書に対して(名前はあえて伏せます)は、「文字ばかりで新聞みたい。読む気にならなかった」「財務データがグラフ化されておらず、一言でまとめてくれていないので分かりづらい」といった辛口な意見も見られました。 もちろん、企業によって、どこに重点を置くかはまちまちですが、その形式がターゲット(例えば学生)の流儀に合っていなければ、そもそも「読まれない」というリスクがあります。
「良いことが書いてあれば伝わる」というのは送り手の論理です。受け手がストレスなく情報を受け取れる「ユーザー体験(UX)」は、統合報告書にも求められていることを、改めて痛感させられる結果となりました。


まとめ:Z世代に響く発信の3つのポイント
今回の拓殖大学でのワークを通して、Z世代への情報発信において重要な3つのポイントが見えてきました。
①共感(ストーリー)
「何をしているか(事業内容)」だけでなく、「なぜやるのか(創業の精神、パーパス)」を伝えること。彼らは企業の「人格」を見ています。
②視覚(ビジュアル)
文字の羅列はNGです。グラフ、図解、写真などを駆使し、スマホ感覚でサクサク読める「ビジュアルコミュニケーション」を徹底することが大事です。
③未来(ビジョン)
過去の実績だけでなく、2030年の目標や環境問題への取り組みなど、企業が描く「未来図」を見せること。同じ未来を描けるかどうかを、真剣に考えています。
統合報告書は、以前は、投資家向けに作られていた資料かもしれませんが、最近はステークホルダー全般に向けた資料になってきています。そのなかでも、「学生」は、とても重要なステークホルダーに該当します。
学生たちにとっては、企業の「素顔」に触れ、自分のキャリアや未来を重ね合わせるための重要なツールにもなり得ます。
学生の素直な目線は、鋭くて、素直です。
企業が自社の魅力を「正しく、分かりやすく」伝えられているかを、敏感に感じ取る力を持っていると感じました。
シェダルは、今後も、学生と企業の架け橋となるような授業・ワークショップを展開していきたいと考えています。
学生の感想ダイジェスト(厳選11名)
19名の感想、気づきのなかから、11名分をダイジェストで掲載します。
短時間にもかかわらず、「同業他社の統合報告書を比較して読んだ」という学生さんもいました。ぜひ、ご覧ください。

1)統合報告書:日産自動車
2)なぜ、その企業を選んだのか:日本を代表する企業であり、自動車業界に興味があるから
3)感想、気づき:
・CEOが最初に新しい時代に(求め)られる考え方を書いている
・今後どうなりたいのか、社会や環境、未来に対してどうなりたいのかを書いている
・2030年の計画など具体的
・TOYOTA(と)比べて図やグラフが多く見やすい

1)統合報告書:三井不動産
2)なぜ、その企業を選んだのか:不動産業界に興味があるため
3)感想、気づき:
・2024年度に過去最高益を更新した
・ステークホルダーとの関わりが豊富
・図解が多くて分かりやすい
・事業をグローバル展開している
・資本コストを低減させながら成長性を向上させている
・日本橋の価値向上にも取り組んでいる

1)統合報告書:オリエンタルランド
2)なぜ、その企業を選んだのか:ディズニーが好きだから
3)感想、気づき:
・「ハピネス創造」をコアにした経営理念が一貫しており、企業としての軸が非常に明確だと感じた
・2035年に向けた長期戦略が大胆で、特にクルーズ事業への参入は既存事業とのシナジーが期待できる新しい挑戦だと思った
・従業員の幸福や育成を重視する姿勢に好感が持てた

1)統合報告書:トヨタ自動車株式会社
2)なぜ、その企業を選んだのか:愛知県出身なので、日本を代表するグローバル企業であり、自分がEV、自動運転、カーボンニュートラルに興味があるから
3)感想、気づき:
・利益最大化だけでなく「交通事故ゼロ」「CO2排出削減」など社会課題の解決を長期的な価値創造の中心に置いているところに共感した
・資本効率の指標を重視しているところが新しい発見(どこに、なぜ投資するのなど)(どのように将来の成長につながるのか)

1)統合報告書:森永製菓
2)なぜ、その企業を選んだのか:森永のお菓子やアイスが好きだから
3)感想、気づき:
・冒頭にビジョンや企業理念が書かれており、どのような目標を持って取り組んでいるのかが分かりやすい
・売上や営業利益だけでなく、人材投資やDX投資などもグラフになっており一目で理解することができる
・食べ物の製造にとどまらず、地球環境やサステナビリティも行っていることが新しい発見だった
・inゼリーのプラスチック使用量の削減やCO2排出量を国内・海外でそれぞれScope 1.2に分けて、2018年から数値化している点に惹かれた
・売上高が毎年右肩上がりなのに対し、CO2排出量が削減していることから、どの取り組みが一番効果があるのか気になった

1)統合報告書:資生堂
2)なぜ、その企業を選んだのか:好きなブランドだから
3)感想、気づき:
・女性の取締役比率54.5%→ ジェンダー平等を2030年までに、現在(2024) 50%
・日本ビューティー企業売上1位、世界8位
・2024売上1%減収
・サステナビリティ、社会&環境→ CO2削減2030年までに達成率46.2%
・美に関する価値観で世界を幸福に
・CEO「美の力で人と社会を豊かにする価値創造を、資生堂だからこそ実現する」

1)統合報告書:味の素
2)なぜ、その企業を選んだのか:昨日、買ったから
3)感想、気づき:
・アミノサイエンスを軸に食・医療・農業まで幅広く価値を生み出す姿勢や、「高速withちゃんと」で丁寧さとスピードを両立する経営が印象的だった
・環境負荷50%削減や健康寿命10億人延伸など、大きな目標に本気で挑む会社で、挑戦を後押しする文化も魅力的だった
・数字よりも未来をつくろうとするストーリーにも惹かれた

1)統合報告書:ロジスティード株式会社
2)なぜ、その企業を選んだのか:今、就職したい企業だから
3)感想、気づき:
・統合報告書を見ると、財務諸表だけでは見えない多くの情報が得られました。例えば、事業の現状と理念や中期的な経営計画などです
・さらに、CEO・CFOからのメッセージも見られます
・単なる数字の羅列の財務情報と比べ、統合報告書には視覚化・モデル化された数値が多く、数字が苦手な人でもその意味を理解できるようになっています
・経営計画からは、企業の未来と成長が自分の理想と合致しているかどうかをより深く理解でき、会社を包括的に把握することができます

1)統合報告書:株式会社ZOZO
2)なぜ、その企業を選んだのか:最近よく使うし、ファッションアプリではない「つけ払い」機能があるから
3)感想、気づき:
・ファッションは「人との出会い」と密接に関係するという観点から、「ZOZOマッチ」というマッチングアプリにたどりつくのが驚いた
・物流の問題解決のために、「注文のおまとめ機能」、「ゆっくり配送」という仕組みを導入し、配送件数の削減、環境負荷の軽減に努めているのを知った
・1998年に有限会社スタート・トゥデイという輸入CD・レコードの販売会社から、2004年にZOZOTOWNとなり、2007年に上場したのがストーリーとして惹かれました
・ファッション・AIにより、最新トレンドを取り入れたコーディネートの提案
・MS(マルチサイズ)で身長、体重を選択するだけで理想のサイズを購入できたり、ZOZOSUIT、ZOZOMAT、ZOZOGLASSでネット購入の層を厚くした

1)統合報告書:野村総合研究所(NRI)
2)なぜ、その企業を選んだのか:IT企業に興味があったから
3)感想、気づき:
・AIの普及は大きなチャンスである一方で、ITソリューション事業の収益構造をひっくり返すリスクもあるとみている
・NRIの強みをさらに伸ばす方針(ITソリューション × コンサル)
・収益はコンサルが1番多いイメージだったけれど、実際は22.6%で、開発・製品販売が31.4%で一番だった
・同業他社(NTTデータ・TIS・SCSK・日鉄ソリューションズ・BIPROGY、IBM・アクセンチュア)と比べて収益力と生産性が高く、かなりの差がある

1統合報告書:富士フィルムホールディングス
2)なぜ、その企業を選んだのか:授業で講演に来てくれたから
3)感想、気づき:
・WICIジャパン統合リポート・アワード2025 「Silver Award」を受賞している
・3期連続で過去最高業績を更新し、ヘルスケアの売上が1兆円を突破している
・人材のシナジーと技術のシナジーをつかい事業を最適化し、環境、健康、生活、働き方に重点をおくことでサステナブル社会の実現を目指している
・売上高は右肩上がりで、2030年でも上がり続けるとアピールしている
・全体的に良い状況で、2030年のプロジェクトに向けて動いているという印象を受ける
拓殖大学での授業のレポートは、以上です。
みなさんの学校や会社でも、統合報告書を読む勉強会を実施してみませんか?

