以下は、気候変動の影響を大きく受ける業界である、「水産・農林業・食料品」の業界についての分析となります。

TCFD業種別ガイダンス要約(農業・食料品・林産物グループ)で見る特徴

TCFDの業種別ガイダンスでは、当業界のグループに関して、主に以下のような特徴がある、と記されています。

同グループの気候関連のリスクと機会は、土地利用、生産慣行、土地利用方法の変化による GHG の排出と水と廃棄物マネジメントから発生する。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、農林水産業は、「主として森林減少、および、家畜・土壌・養分管理からの農業排出量により人為的 GHG 排出量の 4 分の 1 弱を占める。人為的な森林劣化とバイオマス燃焼(森林火災と農業燃焼)も相当の貢献をしている」。(IPCC.「農業、林業およびその他の土地利用(AFOLU)」「気候変動 2014︓気候変動の緩和、2014 年。気候変動に関する政府間パネルの第 5 次評価報告書への第 3 作業部会の貢献」)。農業は主として灌漑により、水を多く消費する。

・農業や林業の生産者は、加工業者よりも、極端な天候や降水パターンの変化など、洪水や干ばつのリスクなどにより財務的な影響を受けやすい
・農業や林業の生産者は、土地の使い方や変更(例えば、放牧、耕作、保護、森林減少、植林など)によって、多くの温室効果ガス(GHG)を出すことがある
・食品、飲料、繊維・紙などの加工業者は、直接的な GHG 排出量(スコープ1)ではあまり影響を受けないが、サプライチェーンから生じる間接的な GHG 排出量(スコープ 3)により影響を受ける可能性が高い
・農業、食料、林産物グループ の情報開示は、GHG 排出量と水使用の分野での、同グループの政策および市場リスク、ならびに炭素隔離や食料・繊維の生産増加、廃棄物削減による機会の双方に関する定性・定量情報に焦点を定めるべきである
  ・・ GHG 排出量と水の使用量を引き下げる取組
  ・・ 生産物と残留廃棄物のリサイクルの促進
  ・・ 十分な食料安全保障を維持しながら、排出量・水・廃棄物が少ない、食料・繊維製品・製造工程およびサービスに対する企業や消費者の傾向の変化を捉える機会
    (例︓バイオプラスティック、遺伝子組み換え作物(GMO)、木質/動物副産物の新しい用途)
・指標の例としては、総取水量と総消費水量、水ストレスのベースラインが高いか、極めて高い地域での取水・消費量の割合、生物学的プロセスからの排出量、土地利用の結果としての炭素ストックの変化、土地利用および土地利用変化、などがあげられる。食品業界が提供する製品は多岐にわたっており、気候変動による需要の変化や原材料調達等のリスクと機会が、製品によって一様ではないことに留意すべき
・食品業界における気候変動がもたらす事業機会としては、猛暑による需要の増加や消費者の嗜好の変化等に対応した製品の開発、環境負荷に配慮した購買行動の拡大などが挙げられる。

米国環境保護庁 農業と食糧供給に対する気候の影響

米国環境保護庁(EPA)は、アメリカ合衆国の環境政策全般を担当する行政機関です。日本の環境省に相当し、国民の健康や自然環境の保護を目的としています。
あまり目にすることのないサイトですが、グローバルの視線で見ることもできる、米国以外でも参考になる情報です。
出典:米国環境保護庁

農業と漁業は気候に大きく依存している。気温と二酸化炭素(CO2)の上昇により、場所によっては作物の収穫量が増加する可能性がある。しかし、これらの利点を実現するには、栄養レベル、土壌水分、水の利用可能性、その他の条件も満たされなければならない。
干ばつと洪水の頻度と深刻度の変化は、農家や牧場主に課題をもたらし、食品の安全性を脅かす可能性がある。
一方、水温の上昇は多くの魚介類の生息地の変化を引き起こす可能性があり、生態系を混乱させる可能性がある。全体として、気候変動により、過去と同じ方法と同じ場所で作物を栽培し、動物を飼育し、魚を捕獲することがより困難になる可能性があります。気候変動の影響は、農業慣行や技術の変化など、農業生産に影響を与える他の進化する要因とともに考慮する必要もある。

(農作物への影響)
・一部の地域では、温暖化により、そこで通常栽培されている種類の作物に恩恵がもたらされるか、農家が現在より温暖な地域で栽培されている作物に切り替えることができるようになります。逆に、気温が上昇して作物の最適温度を超えると、収穫量は減少します。  
・穀物や飼料の品質の低下は、牧草地や放牧地が放牧家畜を支える能力を低下させる可能性があります。
・夏の気温上昇により土壌が乾燥する地域では、干ばつへの対処が課題となる可能性がある。
・多くの雑草、害虫、菌類は、気温の上昇、湿度の上昇、二酸化炭素濃度の上昇といった条件で繁殖します
・二酸化炭素濃度の上昇は植物の成長を刺激しますが 、ほとんどの食用作物の栄養価も低下させます。大気中の二酸化炭素濃度の上昇は、小麦、大豆、米など、ほとんどの植物種のタンパク質と必須ミネラルの濃度を低下させます。二酸化炭素濃度の上昇が作物の栄養価に直接及ぼす影響は、人間 の健康に対する潜在的な脅威となります。害虫の増加と農薬の効力低下による農薬使用量の増加も、人間の健康を脅かします。

(家畜への影響)
・熱ストレスは、動物に直接的にも間接的にも影響を与えます。時間が経つにつれて、熱ストレスは病気に対する脆弱性を高め、繁殖力を低下させ、牛乳の生産量を減少させる可能性があります。
・干ばつは牧草地や飼料の供給を脅かす可能性があります。干ばつにより、放牧されている家畜が利用できる良質の飼料の量が減ります。夏の気温上昇と降水量の減少により、一部の地域では干ばつがさらに長期化し、さらに深刻になる可能性があります。穀物に依存する動物にとっては、干ばつによる作物生産の変化も問題になる可能性があります。
・気候変動により、家畜に影響を及ぼす寄生虫や病気の蔓延が増加する可能性があります。春の到来が早まり、冬が暖かくなると、寄生虫や病原菌が生き残りやすくなります。降雨量が増える地域では、水分に依存する病原菌が繁殖する可能性があります。
・気候によって引き起こされる害虫、寄生虫、微生物の変化に対応して、家畜の健康を維持するために、寄生虫駆除剤やその他の動物衛生治療の使用の増加を含む獣医学の実践の潜在的な変化が採用される可能性が高い。これにより、農薬が食物連鎖に入り込むリスクが高まり、農薬耐性の進化につながる可能性があり、その結果、家畜や養殖製品の安全性、流通、消費に影響を与える可能性がある。
・二酸化炭素の増加は牧草地の生産性を高める可能性がありますが、牧草地の品質を低下させる可能性もあります。その結果、牛は同じ栄養効果を得るために、より多くの飼料を食べる必要があります。

(漁業への影響)
・多くの漁業はすでに乱獲や水質汚染など、さまざまなストレスに直面しています。気候変動はこれらのストレスを悪化させる可能性があります。特に気温の変化は大きな影響をもたらす可能性があります。
・気温や季節の変化は、繁殖や回遊のタイミングに影響を与える可能性があります。水生動物のライフサイクルの多くのステップは、気温と季節の変化によって制御されています。
・温暖化に加え、大気中の二酸化炭素の増加により、世界の海は徐々に酸性化しています。酸性度の上昇は、海水からカルシウムが除去されて形成される貝殻を弱め、貝類に害を及ぼす可能性があります。酸性化は、一部の魚介類が依存している繊細な生態系の構造にも脅威を与えます。

国際的または国内的に、食品の流通と輸送に対する気候関連の混乱は、安全性と品質だけでなく、食品へのアクセスにも重大な影響を及ぼす可能性があります。たとえば、米国の食品輸送システムでは、大量の穀物が水路で頻繁に輸送されます。水路に影響を与える異常気象の場合、輸送の代替経路はほとんどありません。2012 年夏の高温と雨不足により、米国史上最も深刻な夏の干ばつが発生し、中西部農業の主要な大陸横断輸送ルートであるミシシッピ川流域に深刻な影響を及ぼしました。この干ばつにより、はしけ交通量、輸送物量、タグボート業界に雇用されているアメリカ人の数が減少したため、重大な食品損失と経済損失が発生しました。2012 年の干ばつの直後、2013 年春にはミシシッピ川全域で洪水が発生し、これもはしけ交通と食品輸送の混乱をもたらしました。このような輸送方法の変化は、農家が国際市場に穀物を輸出する能力を低下させ、世界の食料価格に影響を及ぼす可能性があります。食糧不足は人道的危機や国家安全保障上の懸念を引き起こす可能性があるため、世界の食糧供給への影響は米国にとって懸念事項である。また、国内の食糧価格の上昇にもつながる。 

分析結果

水産・農林業・食料品の業界に関して、傾向をまとめました。

1.規制強化に関する取組

・エネルギー効率の改善、再生可能エネルギーへの切り替え、拡大 : 省エネ設備やシステムの導入の実施

・フロン規制強化による脱フロン要請 : 自然冷媒(自然界に存在する物質を利用して冷却効果を得る冷媒)への切り替え (アンモニアや水などを利用した自然冷媒)

・包材のプラスチック使用量削減 : バイオプラスチック利用(石油由来のプラスチックとは異なる再生可能な植物資源(例えば、トウモロコシ、サトウキビ、じゃがいもなど)から製造されるプラスチック)、容器包装プラスチックの軽量化

・代替品の商品開発、環境負荷の低い商品の開発・普及

・環境配慮商品の開発や認証商品の取り扱い拡大

・環境配慮型商品の需要増加への対応

2.原材料調達の安定化に関する取組

・  調達産地の分散・変更によるリスク回避

・ 第三者認証(FSC (森林管理協議会)  等)された原料、それに準ずる基準での原料の調達

・  持続可能な農畜産業のための生産者支援の取組(例︓持続可能な生産方式の普及、生産者の経営支援等)

・産地の分散化や調達先の多様化

・耐候性の高い品種の開発、土壌改良、持続可能な水資源管理

・耕作可能な土地の最適利用

・取扱品目、調達先、調達時期の分散化・仕入価格、販売価格の適正維持・在庫水準の適正化

・設備の省エネ化や効率的な操業・カートンモジュール化(荷姿(にすがた)を標準化して、トラックの荷台にぴったりとはまるような荷姿にすること)等による保管配送の効率化

・養殖魚による代替・陸上養殖
※水温上昇、海洋酸性化、海流変化などによる魚種分布の変化、漁獲量の減少や漁獲時期の変化、を考慮するための対策

・野菜未利用部の有効活用(飼料・肥料化)

・代替タンパク商品の開発

・物流拠点の分散・見直し

・防災対策の強化

3.水に関するリスクへの取組

・高温耐性品種の開発など耐候性の高い品種の開発、土壌改良、持続可能な水資源管理

・原料生産地域の水リスク(干ばつ等)に対するサプライヤーとの情報共有

・第三者認証を得た事業者との取引、農家からの原料直接調達、農家支援

・豪雨対策・設備対策等、水リスクの把握と排除

・主力製品のBCP(被災時に備えた事業継続計画)

※以下は、参考までに、TCFDガイダンスの内容
・水リスクの事業運営への影響評価と対策の検討状況
・ 持続可能な農畜産業普及支援(例︓節水型農業等)
・水資源の保全活動(例︓森林保全、水田湛水等)
・取水量、水使用量の削減への取組(例︓原単位当たりの水使用の削減率、水の循環利用等)
・排水処理で発生するメタンガスの発電利用
・象災害(風水害リスク等)の事業への影響の評価と対策の検討 (例︓災害対応工事、工場移転、物流経路・物流センターの再検討、停電・断水等の BCP 対策等) 

4.GHG 排出量削減に関する取組

・モーダルシフト、輸送効率化

・再生可能エネルギー導入、生産設備へのLNGの導入、バイオマスボイラーの導入

・配送方法の見直しによる輸送効率の向上

・栽培に使用した後の菌床(木税を粉砕して作られるオガ粉に水やふすま(小麦粒の外皮や胚芽)などの栄養剤を混ぜ合わせたきのこ栽培の土台)をボイラー燃料としてリユース

5.事業の機会

・環境配慮商品の開発、認証商品の取り扱い拡大

・代替タンパク関連商品開発
※植物由来のタンパク質は、動物由来のタンパク質に比べてカーボンフットプリントが小さく、持続可能な食品として注目(大豆、豆腐、など代替タンパクとして人気)。これらの食品は、動物性タンパク質の代替として利用され、環境に優しい食生活を実現するための選択肢となる

・エネルギー高効率な省エネ設備対応により、操業コスト低減、エネルギーの消費量削減、効率化に伴う操業コストの低減

・高温耐性品種の開発

・防災備蓄に適した商品提供

・熱中症対策商品提供

・温暖化による感染症への感心拡大による酢酸菌ビジネスの展開

・環境配慮型の製法や製品の開発、顧客嗜好をシフトする推進策

・栄養価値が向上する製品開発

・環境配慮型の製法や製品の開発

参考対象企業

プライム市場上場銘柄(東証33業種(水産・農林業、食料品))

(水産・農林業)
コード 銘柄名
1332 ニッスイ
1377 サカタのタネ
1333 マルハニチロ
1379 ホクト
1301 極洋
1375 雪国まいたけ
(食料品)
2914 日本たばこ産業
2802 味の素
2502 アサヒグループHLDG
2503 キリンHLDG
2801 キッコーマン
2587 サントリー食品インターナショナ
2875 東洋水産
2897 日清食品HLDG
2267 ヤクルト本社
2269 明治HLDG
2212 山崎製パン
2501 サッポロHLDG
2002 日清製粉グループ本社
2871 ニチレイ
2282 日本ハム
2579 コカ・コーラボトラーズJPHD
2809 キユーピー
2593 伊藤園
2229 カルビー
2206 江崎グリコ
2222 寿スピリッツ
2607 不二製油グループ本社
2810 ハウス食品グループ本社
2811 カゴメ
2531 宝HLDG
2264 森永乳業
2201 森永製菓
2296 伊藤ハム米久HLDG
2270 雪印メグミルク
2815 アリアケジャパン
2001 ニップン
2602 日清オイリオグループ
2585 ライフドリンク カンパニー
2281 プリマハム
2109 DM三井製糖HLDG
2590 ダイドーグループHLDG
2004 昭和産業
2220 亀田製菓
2292 S FOODS
4526 理研ビタミン
2117 ウェルネオシュガー
2613 J―オイルミルズ
2211 不二家
2931 ユーグレナ
2908 フジッコ
2594 キーコーヒー
2288 丸大食品
2540 養命酒製造
2910 ロック・フィールド
2053 中部飼料
2108 日本甜菜製糖
2294 柿安本店
2918 わらべや日洋HLDG
2217 モロゾフ
2207 名糖産業
2922 なとり
2915 ケンコーマヨネーズ
2209 井村屋グループ
2884 ヨシムラ・フード・HLDG
2060 フィード・ワン
2929 ファーマフーズ
2266 六甲バター
2533 オエノンHLDG
2804 ブルドックソース
2933 紀文食品
2882 イートアンドHLDG
2935 ピックルスHLDG

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