*本記事は、2021年3月に株式会社グリーゼで公開したものを、2024年10月に一部修正を加えて公開しなおしたものです
近頃いたるところで耳にする『SDGs』。しかし、貧困、平等、経済成長・・・といったキーワードが壮大すぎて、どうも具体的なイメージがつかめない。そんな人が多いのではないでしょうか。私たちもかつてはかつては同じような状態でした。そこで、SDGsを実際の現場で学ぶべく、先行企業への見学ツアーを実施しました。
訪れたのは、埼玉県入間郡三芳町で産業廃棄物の中間処理業(※)を営む石坂産業株式会社。
「産業廃棄物」というワードに、なんとなくお堅い雰囲気の見学会を想像しながら現地に着くと、まず目にしたのはナチュラルなインテリアに囲まれたカフェのような空間。
ん? ここは産廃業者じゃなかったっけ?
予想外のおしゃれ空間に混乱しながらも、なんだか面白い見学になりそうな予感がしてきました。
それでは本業のリサイクル工場から見学スタートです!
※産業廃棄物の中間処理とは
例えば古くなった家を解体し、大量の廃材などが出た場合、それをそのまま埋め立て処分に回してしまっては、
処分場がいくつあっても足りません。
そこで、廃棄物を燃やしたり、砕いたりして、埋め立てる量をできるだけ減らす処理が行われます。
こうした工程を中間処理といいます。
目次
1.工夫満載のリサイクル工場で学ぶ、自然との共生
2.SDGs思考を刺激! リサイクルにとどまらない多彩な取り組み
3.ポジティブな循環が持続可能な世界をつくる
1.工夫満載のリサイクル工場で学ぶ、自然との共生
中間処理にはさまざまな方法がありますが、石坂産業が力を入れるのは「再資源化」、つまりゴミのリサイクルです。中でも大きな特徴は、"混合廃棄物"を積極的に受け入れていること。
混合廃棄物とは、例えば建築現場で出るがれき、ガラス、木片などさまざまな素材が混ざった廃棄物のことで、リサイクルが難しいため不法投棄されやすい、といった問題を抱えています。石坂産業では、混合廃棄物のリサイクル技術の開発に挑み続け、今ではリサイクル化率98%を達成しているのだそう。
ゴミとして処理するのではなく、資源として再生する。
「持続可能」を目指すリサイクル工場には、さまざまな工夫がありました。
まず、"工場自体"もそのひとつ。大きな重機や機械がたくさん動いているわりに、工場周辺は意外と静かです。これは、工場全体を建屋の中に収めて、廃棄物の処理をすべて屋内で行っているため。「地域や自然と共生していけるように」という考えから、塵やホコリ、騒音、振動などができるだけ外に漏れないようにしています。
左:【建屋の壁は周囲の自然となじむベージュ色】
右:【その建屋を囲む防音壁には緑化ゾーンが。CO2を吸収したり、防音性を高める効果があります】
工夫は工場の中にもありました。屋根には天窓を設け、自然光を取り込むことで節電につなげています。さらに、舞い上がった塵やホコリを下に落とすために散布しているミストには、雨水を活用。節水しながら働く人の健康も守る、一石二鳥のアイデアに「なるほど!」と思わされます。
【太陽の光が差し込む天窓 横並びで噴き出しているのがミスト】
ほかにも、雨水を汚れた車両のタイヤ洗浄に使ったり、電動の重機を導入してCO2を削減したり、いたるところに見られる「環境や人への心配り」が印象的でした。
石坂産業にゴミを運び込むトラックは1日あたり200~400台にもなるといいます。
扱うのは産廃なので、私たちが家庭から出す一般ゴミとは異なるものの、工場のゴミの山をよーく見てみると、木材やビニール、バケツらしき容器など身近なものも混ざっていました。
さらに驚いたのは、リサイクルの工程には思った以上に「手作業も多い」ということ。
さまざまなゴミがごちゃまぜになった混合廃棄物をリサイクルするには、とにかく「徹底的に分別する」必要があります。重機、機械、そして人の目と手による作業を繰り返し、ようやく取り出された素材が燃料や盛土などのリサイクル製品に生まれ変わっていきます。
左:【工場見学では大きな重機がこんなに間近に。「かっこいい~!」と大興奮でした】
右:【手作業の工程のワンシーン。ベルトコンベアに乗って流れていくゴミを、プロの手さばきで分別】
現在、選別ロボットの開発も進められていますが、リサイクルに大きな労力がかかることに変わりはありません。大量のゴミの山と、リサイクルの果てしない道のりを目の当たりにし、常々いわれる「ゴミを減らす、リサイクルしやすいものを選んで使う」といった取り組みの切実さを痛感しました。
そうした気付きもまた、SDGsの第一歩なのではないでしょうか。
2.SDGs思考を刺激! リサイクルにとどまらない多彩な取り組み
リサイクル工場の見学を終え、次に案内されたのは "森"です。
実は、石坂産業が管理する東京ドーム約4個分もの敷地のうち、本業のリサイクル工場が占める面積はわずか1~2割程度。広大な土地のほとんどは、石坂産業が再生・保全活動に取り組む里山なのです。
その自然を活用した「環境教育」は、石坂産業のもうひとつの大切な事業となっています。
広い敷地内にあるのは、森の中の散策路をはじめ、アスレチックやハーブガーデン、養鶏小屋、雑貨ショップといった施設の数々。
一見「なぜ産廃業者に?」とも思えますが、すべては"資源の循環"や"自然との共生"といったキーワードでつながっています。
例えば雑貨ショップで取り扱うのは、リサイクル原料で作られた日用雑貨や、地産地消の食品など、自然や人にやさしくエシカルな商品ばかり。しかも、どれも見た目がかわいい! 進んで暮らしに取り入れたくなります。
【絵本に出てきそうな外観の雑貨ショップ。写真はパッケージレスの固形シャンプー】
散策路の途中には、こんもり盛られた落ち葉の山が。この落ち葉は畑の堆肥として使われ、そこで栽培した新鮮な野菜は、冒頭のおしゃれ空間「くぬぎの森交流プラザ」でおいしい料理となって提供されます。
バラエティに富んだ取り組みは、SDGsとの関わり方にたくさんのヒントを与えてくれます。
見学最後には、自然の恵みたっぷりの昼食をいただきました。自家製有機小麦の手打ちうどんや、森の野草を使った煮物や天ぷらなど、体にやさしいオーガニック料理は味も抜群でした。
左:【森の落ち葉を堆肥として使う「落ち葉堆肥農法」は、まさに自然の循環そのもの】
右:【ランチでいただいた武蔵野うどん】
3.ポジティブな循環が持続可能な世界をつくる
さまざまな気付きが得られた今回の見学ですが、総じて印象に残ったのが「本当に楽しかった!」ということ。
見学の中で「石坂産業では、NIMBY(ニンビー)を PIMBY(ピンビー)へと変えることを目指している」というお話がありました。
NIMBYは、
Not In My Back Yard (必要な事業だとは思うけれど、我が家の裏庭ではやらないで)という意味で、ゴミ処理場をはじめ、学校や福祉施設などの建設問題でもよく聞かれる言葉です。
一方のPIMBY は、
Please In My Back Yard(どうぞ我が家の裏庭へ)の意味です。
環境問題など、社会的な課題への取り組みと聞くと、「辛くても我慢してやらないと......」といったネガティブなイメージが強いのではないでしょうか。
石坂産業の試みには、思わず「参加してみたい!」と思わせるようなポジティブさがあります。
楽しみながら学ぶ
思わずやってみたくなる
自然と生活に溶け込んでいる
大勢の人を巻き込んでSDGsを実践していくためには、そんなポジティブな循環を生む仕組みづくりが大切なのかもしれません。
「身の回りにはSDGsの種がたくさんある」という気付き、そして「取り組みへの前向きなパワー」をもらえた見学ツアーでした。
(ライター 寺崎 靖子)
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