有価証券報告書の充実は、単なる義務ではなく、企業の競争力を高める手段として活用することが重要です。
開示の質を高めることで、
・投資家・金融機関の評価向上
・取引先との関係強化
・ブランド価値の向上
・優秀な人材の獲得
・従業員のエンゲージメント向上(それに伴う生産性向上、離職率減少などの効果)
など、メリットが生まれ、結果的に企業価値の向上にもつながります。
サステナビリティ情報開示の強化は、「やるべきかどうか」ではなく、「どのように取り組むか」が問われるフェーズに入っています。将来の競争力を確保するために、企業は今こそ本質的な開示へと舵を切るべき時です。
理由
1.ESG投資の拡大と情報開示の重要性
ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を重視した投資が主流となっています。特に、欧州を中心に規制が厳格化されており、国際的な基準(TCFD 、CSRD など)に沿った開示を行わない企業は、投資対象から外れるリスクが高まっています。
欧州では、CSRDの対象条件に合致しているにもかかわらず、CSRD対応を行わなければ、投資対象からはずされるばかりでなく、罰則がある上、取引先・顧客から圧力がかかったり、競争力が失われ、市場撤退ということもありえます。
国内でも、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)をはじめとする機関投資家が、サステナビリティ要素を考慮した投資を強化しており、適切な情報開示を行うことが、資金調達や株価評価に影響を与えるようになっています。
2.開示強化の背景
2023年度より、有価証券報告書に「サステイナビリティに関する考え方及び取組」が新たに記載されることになり、サステイナビリティ情報の開示が義務化されました。
プライム市場では「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」のすべてが義務化され、スタンダード・グロース市場および非上場企業も、「ガバナンス」と「リスク管理」の開示が必須となりました。
これまで任意とされてきた「戦略」や「指標と目標」も、将来的には義務化される可能性が高く、早い段階で対応を進めることが競争優位性を確保する上で重要になります。
また、2026年3月期開示基準導入、2028年3月期保証制度導入、ということも金融庁から示されています。
・ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準を踏まえ、気候変動、人的資本、サプライチェーンなど、具体的な開示項目が定められています(一般開示基準)(気候関連開示基準)
・具体的な指標を用いた定量的な情報開示が求められます。温室効果ガス排出量、再生可能エネルギー使用量、労働時間、従業員多様性など。
・開示時期が明確ではありませんでしたが、開示時期が明確化されるようになります。
3.企業の持続的成長に不可欠
気候変動リスクの顕在化、自然資本の制約、社会課題の深刻化などにより、持続可能なビジネスモデルへの転換が求められています。
企業がこれらの課題にどう向き合い、どのようなリスクと機会を認識し、どのような戦略を持っているのかを明示することは、ステークホルダーとの信頼構築に欠かせません。有価証券報告書の充実は、その最も基本的なステップのひとつです。
サステナビリティはもはやCSR(企業の社会的責任)の一部ではなく、企業の存続と成長に直結するテーマとなっています。
開示の現状と課題
有価証券報告書の新ルールに対応し、多くの企業がサステナビリティ情報を追加し始めていますが、その内容にはばらつきがあります。
形式的な開示にとどまる企業:義務化された項目を最低限記載するのみで、具体的な戦略やリスク管理の詳細が欠落
抽象的な表現が多い企業:企業理念や一般論に終始し、実際の取り組みや財務インパクトとの関係が明確でない
情報量が過多な企業:さまざまなデータを羅列するが、ストーリー性がなく、投資家が求める「意味のある情報」として機能していない
これらの課題を克服し、質の高い開示を行うためには、以下のポイントを意識することが重要です。
有価証券報告書の充実に向けたポイント
- 戦略と財務インパクトの明確化
サステナビリティの取り組みが、どのように企業の成長戦略と結びつき、財務的な影響を及ぼすのかを明確に示すことが重要です。
特に、気候変動リスク(物理的リスク、移行リスク)や自然資本リスクの影響度合いはどれくらいなのかを示す上でも、シナリオ分析を活用することが必要です。
そのためにも、まずは、現状の計測からはじめることが重要です。
- 業界特性を踏まえた開示
サステナビリティに関する課題は業界ごとに異なります。例えば、製造業ではサプライチェーン全体のCO₂排出量(Scope3)が重要視され、金融業ではポートフォリオ全体の環境負荷が問われます。
業界の特性を考慮し、自社にとって本当に重要なテーマにフォーカスした開示を行うことが、説得力を持つ情報開示につながります。
業界の傾向、その業界の事例(例えば、環境省:ESGファイナンス・アワード・ジャパンにおける【環境サステナブル企業部門】受賞企業)を参考にすることが早道です。
- ガバナンスとリスク管理の実効性の強化
ガバナンス体制やリスク管理の枠組みを具体的に説明し、単なる形式的な開示ではなく、実効性があることを示すことが求められます。取締役会の監督機能、経営陣の意思決定プロセス、サステナビリティ推進部門の役割などを明確にすることで、投資家の信頼を得ることができます。
わかりやすさも重要ですので、図示化するなど、一見して概念が把握できるようにしておくことも重要です。
- 指標と目標の具体性
せっかく取組内容を示して、活動していたとしても、数値目標が不明瞭なままな状態では、投資家にとって評価が難しくなります。
GHG排出削減目標、再生可能エネルギー導入率、ダイバーシティ指標などを明示し、進捗状況を定量的に開示していくことが必要です。
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